【第32回】 事業承継を恐れず、好機を逃さず

第25~36回

事業承継対策の手法いろいろ

事業承継税制や小規模宅地等の特例以外にも、中小企業の事業承継対策に活用できる技はまだあります。

たとえば「金庫株」の制度を使えば、株式を発行した会社の分配可能額に余裕があれば、相続した株式を会社に買い取ってもらい、相続税の納税資金を捻出することができます。

通常、非上場会社の株式を発行会社に売却すると、その対価の大半は株主に対する配当だとみなされて、最高50%の税率で所得税と住民税が課されます。しかし、相続税の申告期限から3年以内に、相続した非上場株式を発行会社に売却した場合は例外的に、要件を満たせば配当所得ではなく譲渡所得として、20%という低い税率で所得税と住民税が課税されるのです。さらに、支払った相続税を譲渡所得の経費にできるというおまけまでつきます。

また、「役員退職慰労金」の支給も今や必須だと言えるでしょう。
オーナー経営者は私財を会社につぎ込んでいることが多いので、優良企業であればあるほど高い株価に見合う金融資産を個人では所有していません。役員退職慰労金を支給することにより、キャッシュを会社から個人へ戻すことが可能になります。

相続税の計算上、死亡退職金には500万円×法定相続人の数の金額の非課税枠がありますし、非上場会社の株価を評価する上で退職金は負債に計上することができるので、相続税上は多くのメリットがあるのです(詳しくは、FPSクラブで吉光隆さんが連載されていた「『役員退職慰労金』を極める!」をご覧下さい)。

最近は、株主の権利である議決権や利益配当請求権に差を設けた種類株式を発行し、後継者とそれ以外の相続人に相続させたり、信託を活用し議決権の行使を指図する権利と配当を受領する権利を分け、議決権の分散を防いだりする新しい手法もあります。

いわゆる「事業承継対策」ではカバーできない問題も

そうは言っても通常の相続案件に比べ、税理士がお客様へ事業承継の提案を行うのはやはりハードルが高いです。

私の顧問先にも「事業承継」など口に出そうものなら、烈火のごとく怒りだす80代のオーナー経営者がいます。
社長の座だけは息子に譲ったとはいえ、相変わらず取引先に足を運び、株主総会では60歳近い息子の経営方針を非難します。経営手腕に衰えが見え始めていると後継者や従業員から相談を受けても、私が本人に進言するのは困難です。

資産税や事業承継だけを専門として扱っている税理士事務所なら、その必要性をある程度理解しているお客様だけが事務所を訪れていることでしょう。
しかし通常の税理士事務所では、既存契約の解除を恐れると踏み込んだ提案はなかなかしにくく、顧問先に事業承継の重要性を理解してもらうのさえも大変です。

とはいえ、事業承継の成否は単なる創業者一族の相続問題に留まりません。
従業員の雇用や取引先など地域経済への影響なども極めて大きいので、経営者としての資質を備えた後継者がスムーズに事業を引き継ぎ、会社を継続的に発展させていく必要があります。

部外者だからこそ、身内では解決が難しい問題に取り組めるという考え方もあるでしょう。税制改正の好機を逃さず、事業承継の話をすることを恐れず、情報提供を提案のきっかけにしていきたいと思います。

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