贈与の証拠の残し方

相続税相談の現場から

お客様から

「信託銀行から暦年贈与信託のサービスをすすめられましたが
利用した方がいいでしょうか」

というご質問があったので

このサービスだけを単体で利用するなら
贈与の証拠が残るのでよいと思います、とお答えしました。

ただし、銀行にとっては手数料収入が多いものの
お客様にとってのメリットはそうでもない
遺言信託などの相続関連サービスやなども、同時に勧められる可能性があります。

そのため、銀行のサービスを利用する場合でも
「贈与の証拠の残し方」については
ご自身できちんと理解しておいた方が安心だと思います。

贈与の「証拠」

自分名義の預金があって
その元手は過去に誰かから贈与でもらったものだと税務署に主張するには
必ず「証拠」が必要になります。

(1) 贈与契約書 ― 民法上 ―

「あげた」「もらった」という意思があったことを証明するためです。
もらったと口で言うだけでは、証拠になりません。

すべて書面で残しておきましょう

(2) 印鑑・通帳の管理や支配、自由な使用収益 ― 税務上 ―

もらった人がもらった財産を持ち、自由に使えていることがポイントになります。
本当にもらったのなら当たり前のことですよね。

(3) 贈与税の申告納税 ― さらに ―

年間110万円を超える額の財産をもらったら、当然、その義務があります。

相続税の法令や通達には「贈与」という言葉の定義がありません。
そのため税務署も、まずは民法の考え方に従います。

贈与の証拠が必要な理由

民法上、贈与は「承諾」によって成立する契約である以上
お互いの了承がない贈与はありえません。

そのため「あげた」「もらった」という証拠が必ず必要です。

これが(1)。

でも税務上、贈与税がかかる贈与として
民法上の贈与以外に第8回のコラムでご説明した
「みなし贈与」というものを定めているように

ある人が得をしたなら、その得をした部分には贈与税をかけてもよいと考えています。

つまり、もらった財産がその人に引き渡され、
「その人が使える=実際に得をしているという事実」が、
贈与について考える上で、最も重要視されています。

これが(2)。

さらに、年間110万円を超える額の財産をもらったら、贈与税を納めるのが国民の義務です。

これが(3)。

とはいえ、実際にはどこまで細かく証拠を残しておけばいいのでしょうか。

客観的に証明できる贈与の証拠を残しておくことが大切

過去に贈与があったとも、なかったとも
どちらともとれそうなあいまいな証拠しかない。

だとしたら、私たちと同じように税務署も
自分の立場が有利になる=税金が取れるような主張を必ずしてきます。

なので、事実に反することを税務署から言われないためには
自分の言い分を客観的に証明できるよう
できるだけ多く「贈与の証拠」を残しておくことが大切です。

どこまで細かく証拠を残すかは
その人がどの程度、確実にしておきたいか次第です。

生前贈与を行う際は
(1)から(3)の贈与の事実を立証するための3要件をくれぐれもお忘れなく。

誰かにサポートしてもらいたい方は、暦年贈与信託などのサービスを利用した方が安心ですね。

中立的な立場で、相続や贈与のアドバイスがほしいという方は
どうぞ遠慮なくご相談下さい。

-相続税相談の現場から

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