「したつもり贈与」の落とし穴

相続税相談の現場から

前回に引き続き、贈与について考えます。

「贈与したつもりだったのに…」という事態を避けるには

他にも「預金の名義を変えたら贈与になる」「贈与税の申告書を税務署に提出し、贈与税を納めれば、それが贈与の証拠になる」――。こういった誤解もまだ根強いですが、贈与の事実があったかは、あくまで前回のコラムでご説明した

(1) 「あげた・もらった」という両者の意思があったか
・・・2人が署名・捺印している贈与契約書があるか
(2) もらったという実態はあるか
・・・もらった人に通帳や印鑑、カードを渡し、もらった人が自由に使えているか

次第です。

“「したつもり贈与」に過ぎない”という指摘を避けるには、贈与の事実を客観的に証明できる証拠を、数多く残しておくに限ります。どこまで細かく証拠を残すかは、その人がどの程度確実にしておきたいか次第でしょう。

お金は現金手渡しより銀行口座への振込で、証拠は口頭ではなく必ず書面で、できれば自筆の書面で残します。ワープロ打ちの完璧な契約書より、被相続人や相続人の筆跡で書き込まれた手帳や家計簿、カレンダー等の方がより証拠能力が高いです。

贈与や家族による財産管理は相続トラブルのもとになる

贈与はとてもシンプルで、安全な相続税の軽減対策です。贈与契約書の作成やもらう人への財産の引渡しなど、贈与を確実に行うことにさえ注意すれば、相続税を直接減らす効果があります

しかし、遺産分割は亡くなった人から生前に受けた贈与も考慮して、行うことになっています。民法には「特別受益」と呼ばれる考え方があり、亡くなったときに残っている財産を均等に分ければ、それで公平だという訳ではないからです。

相続税の申告に必要なら、税務署に請求し、他の相続人に対する過去の贈与金額を確認することができますが、相続税に関係のない家庭はそれもできません。
「特定の」子や孫への生前贈与は、遺産分割トラブルの火種になってしまいます。

【参考: 贈与税の申告内容の開示請求手続(国税庁HP)

また、家族による財産管理は慎重に行わなければなりません。
妻や子による夫の財産の使い込みの例が少なくないため、税務調査でも、本人に意思能力があった期間、入院した時期、入院後に出金や振込を行った者やその使途、容体が悪化した時期、死亡原因などにつき、かなり詳しく調べます。

通常の生活費程度なら、夫の預貯金を妻が使ってもかまいませんが、金額が多額であるとして、贈与や不法行為・不当利得だと指摘された事例も、実際に存在するのです。

高齢化に伴って縮小する国内ビジネスが多いなか、相続は拡大が見込める数少ない市場です。だからこそ、一般の方が見聞きする相続や相続税に関する情報は、相続ビジネスを行う者が、より報酬を得やすい内容に偏りがちになっています。
「相続税の節税ありき」の提案や対策に踊らされず、家族のライフプランや必要資金につき、正攻法でじっくり考えたいですね。

-相続税相談の現場から

関連記事

退職金話法、その前に(所得税法)

通達よりまず法律!役員退職給与の基礎のキソ 【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】は、税理士も、また税理士ではなくても法人へ生命保険を提案されるみなさまなどにはなじみのある通 …

親きょうだいの扶養義務

就職や結婚を機に家を出て、自分の家庭を持った後も 実家の親きょうだいが経済的に困窮している場合は、支援する必要があります。 ただ、誰がどの程度支援すべきかは、法の定めや各人の状況により異なります。 扶 …

マンションの相続税評価方法の見直しが検討されています

相続税や贈与税の計算上、財産は「相続時の時価」で評価することになっています。 この相続時の時価とは、一般的に 国税庁の定めた「財産評価基本通達」で評価した評価額(通達評価額)のことをいいます。 現在の …

相続税の申告を間違えたら、いつまでに直した方が得?

税務署に提出した申告書に誤りがあり、払うべき税金が不足していたことに、ハッと気づいたとします(仮定の話です)。 相続税の申告を直す方法 その場合、正しく直す方法は2通りあり ・納税者側から修正する・・ …

不動産オーナーの認知症対策

認知症による資産凍結が話題になり 賃貸アパートや貸家、テナントビルをお持ちの方から 将来の認知症に備えたいというご相談が増えています。 不動産オーナーが認知症になった場合 ご相談が増えている理由は 認 …

相続税相談の現場から
ブログ