母の財産は誰のもの?

相続税相談の現場から

母の財産は誰のもの?

私が参加している「相続・後見マネー塾」では、メンバーが月に1回集まって、相続、後見、年金、生命保険などの各自が抱える事案につき、相談や議論をしています。

先日は雑談中に「父が亡くなると、母のお金の使途や財産に子どもが口を出すようになる」ことが話題になりました。ちょっとした旅行や買い物でも、母がお金を使うと息子がとがめるとか、娘が急に母と同居したいと言い始めたとか・・・。

もちろん子は、母が詐欺などの被害にあわないよう、財産の管理には十分気を配る必要があるでしょう。
でもメンバーからは「自分が将来、相続する財産が減ることが心配なのかな」「一緒に住めば、母のお金を自分が自由に管理できると思っていたりして」という辛口な意見もありました。

実際に私が受けるご相談も、生前贈与や二次相続に関するものが増えています。
相続税の負担を減らしたい子の気持ちも理解できますが、そもそも母があと何年生きるかは誰にも分かりません。
お金が有り余っている家庭は別として、子の「相続税対策」より母の「長生き対策」の方は大丈夫なのか、心配になることがあります。

生前贈与で相続税対策をしておかないと、相続税は払えない?

母が子2人に1億円の財産を残して亡くなると、相続税額は合計770万円です。ただし、この1億円の半分が自宅の敷地であり、小規模宅地等の特例を使えれば(同居の子またはマイホームを持たない別居の子が、自宅の敷地を8割引で相続できれば)、相続税額は180万円で済みます。

仮に母が残した財産が2億円だったとしても、そのうち半分が自宅の敷地で小規模宅地等の特例を使えれば、相続税額は1,160万円です。非課税限度額ほどの死亡保険金を受け取れる生命保険に加入していれば、相続税はその保険金でほぼまかなえます。

国税庁のデータによれば、財産が2億円を超える相続税の申告件数は年間18,427件(令和3年)であり、相続税の実地調査の件数が年6,317件(令和3事務年度)、税務署からの文書や電話連絡による申告是正の連絡件数が年14,730件(令和3事務年度)です。

国税庁/統計情報 令和3年度 相続税
国税庁/令和3事務年度における相続税の調査等の状況(令和4年12月)

相続税の納税資金や税務調査への備えなど、具体的な相続税対策が必要になるのは、おおよそ財産が2億円を超える家庭だと考えておけばよいでしょう。

財産が2億円に満たないなら、小規模宅地等の特例を受けられるようにしておくことや、死亡保険金の非課税枠を活用することの方が、生前贈与を行うより先だと思います。民法上の要件を満たしていない生前贈与は、税務調査を受ける可能性が高くなります。それを名義預金だと指摘されれば、相続税に加え延滞税や過少申告(無申告)加算税も課されてしまうからです。

次回のコラムでは、税務以外の観点から、生前贈与の問題点について考えたいと思います。

-相続税相談の現場から

関連記事

税務署が贈与を見つけるとき

毎年12月ごろ、国税庁のホームページに相続税・贈与税の調査事績が公表されます。 税務調査の件数は、近年コロナの影響で激減していましたが 少しずつ以前の状況に戻りつつあります。 令和3事務年度における相 …

事業承継を恐れず、好機を逃さず

事業承継対策の手法いろいろ 事業承継税制や小規模宅地等の特例以外にも、中小企業の事業承継対策に活用できる技はまだあります。 たとえば「金庫株」の制度を使えば、株式を発行した会社の分配可能額に余裕があれ …

生命保険、一定枠まで非課税

銀行で、相続対策にもなるからと、生命保険を勧められました。 どのようなメリットがあるのか、具体的に教えて下さい。 生命保険が相続対策になる理由 定期預金が満期を迎えた高齢者らが 銀行の窓口で終身保険( …

「相続弁護士」「相続税理士」「相続司法書士」― 最適な専門家を探すには?(前編)

どの専門家に何を頼めばいい? 「相続について相談したいけれど、どの専門家に何を依頼できるのか、そして、その専門家をどうやって探したらいいのか分からない」 お客様からそう言われることがあります。 「相続 …

遺言で愛する妻の再婚を阻止する方法

先日、ウィーン・フォルクスオーパーのオペレッタ「メリー・ウィドウ」の日本公演を観に行きました。 メインテーマは「大富豪の夫から多額の財産を相続した未亡人ハンナの再婚相手は誰か?」。 彼女には財産目当て …