進む事業承継への環境整備

相続税相談の現場から

事業承継税制はこう変わる

平成25年度税制改正で事業承継税制(非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予制度)の見直しが行われました。

事業承継税制とは、中小企業の後継者が現経営者から株式を承継する際に、相続税や贈与税が軽減される(相続80%分、贈与100%分)という制度です。

従来は、この制度の適用を受けられる後継者は現経営者の親族に限られていました。申告期限後5年間は雇用の8割以上「毎年」維持する義務があり、さらに贈与の場合には、現経営者は株を手放す上に役員の退任まで要求されていたのです。あまりに条件が厳しすぎ、適用件数が伸びないのは当然だと言われていました。

改正後は一転、格段に利用しやすくなります。一番大きな改正は、経済産業大臣による「事前確認」の制度が廃止された点です。また、後継者は親族ではなく第三者でもOKです。雇用の8割維持も、毎年ではなく「5年間の平均」で判定されます。現経営者は代表権さえ返上すれば、役員のままでもかまいません。

仮に要件を満たさなくなり納税猶予が打ち切られる場合には、猶予された相続税や贈与税に加え利子税の支払いが必要ですが、承継後5年経過していれば5年分の利子税は免除され、利子税の税率も年2.1%から年0.9%に引き下げられることになりました。

8割引特例の改正は事業用の土地にもメリットあり

また、経営者個人が所有する土地を会社の事業に使用している方にとっては、小規模宅地等の特例の改正も朗報です。平成27年からは自宅の敷地(特定居住用宅地/適用上限面積330㎡)に加え、特定同族会社が事業に使用する土地(特定同族会社事業用宅地/適用上限面積400㎡)も、それぞれ別々に対象面積の上限まで土地の評価額を8割減額できることになりました。

このように税制面で事業承継への環境整備が整いつつある今が、事業承継への取り組みを始める好機だと言えます。

事業承継税制や小規模宅地等の特例以外にも、中小企業の事業承継対策に活用できる技はまだあります。

たとえば「金庫株」の制度を使えば、株式を発行した会社の分配可能額に余裕があれば、相続した株式を会社に買い取ってもらい、相続税の納税資金を捻出することができます。譲渡制限株式なら、株主総会の特別決議を取って定款に定めれば、会社の側から相続人に対し株式を売り渡すよう請求することも可能です。後継者以外の相続人から株式を買い取れば株式の分散を回避できるので、相続後も会社の経営を安定させることができるのです。

後継者以外の相続人にとっても、軽い税負担で株式をキャッシュ化できるというメリットがあります。

次回のコラムでは、その他の事業承継対策についてご説明します。

-相続税相談の現場から

関連記事

税務署が贈与を見つけるとき

毎年12月ごろ、国税庁のホームページに相続税・贈与税の調査事績が公表されます。 税務調査の件数は、近年コロナの影響で激減していましたが 少しずつ以前の状況に戻りつつあります。 令和3事務年度における相 …

贈与していないのに贈与税がかかる?

前回のコラムでは 妻が夫の預金口座から自分の口座にお金を移したとしても 夫から妻へ「贈与」が行われていないなら 法律上の「持ち主」は夫のままだとご説明しました。 そして、たとえ夫婦の間でも 夫から妻へ …

「相続弁護士」「相続税理士」「相続司法書士」― 最適な専門家を探すには?(後編)

前回に引き続き、「相続の専門家」についてです。 状況により選ぶべき「相続」の専門家は違う 【司法書士】 不動産登記や商業登記などの「登記」の専門家です。相続に関しては、被相続人から相続人へ、土地や建物 …

退職金話法、その前に(法人税法)

そもそも「退職金」とは? 前回のコラムでは、【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】の正しい位置づけを知るために、できれば役員退職給与の基礎のキソ、つまり、税務上の退職金に関す …

妻の「名義保険」にご注意を

妻の保険も遺産分割や相続税の対象に!? 相続税の税務調査における申告もれ財産のNo.1が現金・預貯金、いわゆる「名義預金」だということは、みなさまよくご存じでしょう。 名義預金とは、預金口座の名義は亡 …