遺産相続の基本ルールを知る

相続税相談の現場から

相続税のことも心配ですが、二世帯住宅に長男家族と暮らしているため、
遺産相続で長男と長女がもめないかも気がかりです。

遺産をスムーズに分けられないと、相続税の特例を使えず納税額が増えることがあります。

今回は「遺産相続の基本的なルール」を説明します。

親の自宅をどう分ける?

東京23区在住の70代男性Aさんは、夫婦で二世帯住宅に住んでいます。

老朽化した家を長男が建て替え、Aさんと同居しています。
Aさんには、既に結婚して家を出た長女もいます。

Aさんの主な財産は、自宅の敷地5,000万円相当と預金1,000万円です。
都内で地価が高く、相続税の基礎控除額を超えています。

法定相続人・法定相続分とは

この場合、相続税対策も重要ですが、先に行いたいのが遺産相続への備えです。

遺言が残されている場合を除き、亡くなった方の遺産は「相続人」が引き継ぎます。
Aさんの相続人は妻と長男・長女の3人です。

配偶者は必ず相続人となり、さらに子がいれば子、
子などがいなければ親が、親などもいなければ兄弟姉妹などが相続人になります。

誰がどれだけ相続するかは、相続人同士の話し合いで決めます。
Aさんの場合、長男と長女は相続せず、妻がすべて相続しても構いません。

話し合いで結論がでない場合は、民法のルールに従い「法定相続分」で相続します。
配偶者と子が相続人なら、法定相続分は2分の1ずつです。
子が複数いる場合は、子の取り分の2分の1を等分します。

Aさん家族の場合、法定相続分は、妻2分の1、長男と長女が4分の1ずつ。
つまり、妻は3,000万円、長男と長女は1,500万円ずつ相続する権利を持ちます。

Aさんの妻か長男が、二世帯住宅の敷地を相続すれば、
自宅の敷地の評価額が8割引になる相続税の特例も使えます。

その場合、長女が1,000万円の預金を相続しても、1,500万円の法定相続分には500万円足りません。
Aさんが老後の生活資金として預金を取り崩すと、長女に残せる遺産はさらに少なくなります。

代襲相続・特別受益・寄与分とは

Aさん夫婦より先に長男が亡くなれば、
長男の子(Aさんの孫)が長男の代わりに相続人になります(代襲相続)。

兄弟同士の場合とは違い、長女との話し合いはさらに難しくなる可能性があります。

また、Aさんが長男に家を建てる資金を援助していると、
その分は遺産の先取りである「特別受益」として、長男の取り分から減らされます。

一方、長男がつきっきりでAさんの介護をするなど特別の貢献をした場合、
「寄与分」として多く遺産を相続したいと長女に主張するかもしれません。

遺言を残しておいた場合はどうなるか

Aさんのケースは、円満に相続の手続を進めるため、「遺言」を残すべき典型例です。

遺言がある場合、長女の遺留分(遺言がある場合の取り分)は8分の1です。

Aさんが遺言で、長女に預金1,000万円を、妻か長男に自宅を相続させるようにした場合、
長女の相続する金額は遺留分を上回ります。

妻と長男は相続税の特例を受けた上で、Aさんの死後も今の家に住めます。

自分の子どもの取り分に差をつけるようなことはしたくないかもしれません。
しかし、遺産相続でもめれば、兄弟同士のわだかまりが残ります。

専門家のサポートを得ながら、遺産相続と相続税、両方への備えを行っていきましょう。

-相続税相談の現場から

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