妻が自分の通帳を税理士に見せなかったら?

相続税相談の現場から

仕事も趣味も人生も
結果よりそこに至る「過程」をより楽しみたいもの。

楽しむかどうかは別として、「過程」が大切なのは相続税の申告業務も同じです。

正しい申告納税を行う「過程」

税務上、正しい申告納税を行うことが税理士の役目ですが
相続税のかかる財産の「範囲」については
普通の方の認識と税務上の考え方が大きく違う
ため、問題が多く生じます。

「ご主人「名義」になっている財産だけではなく、
ご主人の「稼ぎ」がもとになっている財産については
名義が誰かにかかわらず相続税がかかります。
なので、そういったものがあればその資料もお預かりさせてください。
もし分からなければ、過去の預金通帳を
ご家族のものも含めできるだけ多く見せて頂ければ、私が確認しますね」

こう、税理士が相続人であるお客様に説明し、
必要な資料を集めたり、情報を引き出したりしなければなりません。

この「過程」が税理士の腕の見せ所。
これを行わなくてよいのなら、税理士の仕事は数十倍楽になります。

なぜなら、奥さまは
自分の財産がいくらあるかなんて、普通、税理士にはおっしゃいません。

「先生は税務署の方みたい。私の財産までチェックするの?」と言われても

「私がチェックしなくても、後で税務署の方がチェックします。
そのときに見つかると、先に申告しておけば相続税はゼロで済んだのに
見つかったお金の大半が
税金として国に取られてしまうこともあります」と答えます。

配偶者の税額軽減

相続税には、「配偶者の税額軽減」という規定があります。

奥さまが相続する財産が法定相続分か1億6,000万円のどちらか少ない金額なら
奥さまに相続税はかかりません。

奥さま名義の財産をご主人の財産として申告しても、
よほどの資産家でない限り、納める相続税はゼロかごくわずかだけ。

ほとんどが手元に残ります。

ただし、税理士のアドバイスを聞き入れず、税務調査で指摘を受けると
奥さまが「仮想隠ぺい」を行ったと言われます。

「税理士が指導したのに見せない=隠した」ということになるのです。

その場合、配偶者の税額軽減が使えなくなり
相続税(10~55%)がかかるだけではなく、
利息である延滞税も、本来は申告期限後1年分だけで済むのに、全期間分払わなければならなくなります
(税率は年によって変わる。令和5年は申告期限から2ヶ月間は2.4%、それ以後は8.7%)。

罰金も、過少申告加算税(10・15%)ではなく重加算税(35・40%)が課されるので、
結局は隠したお金のほとんどを国に取られてしまうことになるのです。

税理士にお客様の預金通帳を調べる権限はありません。
でも税務署は、家族名義の口座でも何十年前のものでも、職権で調べられます。

注意喚起の意味を込め、これに関する国税不服審判所の裁決事例も公表されています。

どちらがいいかは一目瞭然。
納得がいかなくても、名を捨てて実を取った方が断然お得だと思います。

-相続税相談の現場から

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