謎だらけの過大役員退職給与(後編)

相続税相談の現場から

前回に引き続き、「過大役員退職給与」について考えます。

「いくらなら不相当に高額か」については謎だらけ

役員退職給与が「不相当に高額」か否かを類似法人と比較するため、審判所等では主に「功績倍率法」「1年当たり平均額法」の2つの方法が採用されているとご説明しました。

「功績倍率法」「1年当たり平均額法」のどちらを採用するにせよ、どの法人を類似法人として選定するかという争いも多いのですが、さらに根本的な問題となるのは「その類似法人の役員退職給与のデータをどうやって入手するか」です。

同地域・同業種・同規模の法人は、まさにビジネス上の競合相手。競合相手の役員退職給与を知ることは、どう考えても難しいのが実情です。
ということは、納税者にはそもそも合理的な判断材料がありません。それなのに、納税者や税理士は、役員退職給与の支払いや法人税の申告の段階で、類似法人と比較して「不相当に高額」か否かを自ら判断しなければならないのです。

税務署は、退職給与にかかる源泉所得税の納付状況から、所轄税務署内における実際の役員退職給与の支給事例を業種別にデータ分けすることが可能です。
「税務上、類似法人と比較して不相当に高額なら認めない!」のなら、その情報を持っている税務署が、せめてデータを公表してくれたら・・・。
最終的に審判所や裁判所は、職権により各種資料を入手して税務署と納税者のどちらの言い分が正しいか判断するのですから、やはり不公平だと感じます。

中小企業の顧問先が多いとはいえ、税理士も、創業者の退職に遭遇する機会が多いわけではありません。最終報酬月額が低額だったため、(1万人を超える税理士がシステム等を利用している)(株)TKCが公表する経営指標に基づいた最終報酬月額を使って算出した役員退職給与が否認されている裁決事例もありました。

役員報酬や退職慰労金規程の見直しなど、できることから準備する

現在は、平成13年に施行された情報公開法により、審判所の裁決事例や国税局の内部通達が開示されつつあります。
相手の判断基準が明らかになり、ある程度、事前の備えができるようになりました。

例えば、役員の貢献度は最終報酬月額に反映済みだと考えられているようなので、報酬が低すぎる場合には、役員報酬の見直しが必要になります(見直し自体はそれほど問題視されないようです)。
または、退職慰労金規程を見直して、最終報酬月額ではなく在任した役位毎の基本報酬月額や功績倍率を用いる方式にしておくことも一案です。

「死亡保険金の額=役員退職給与の額」であっても、それが税務上の適正額ではありません。
税理士から退職金話法で生命保険への加入を勧められたなら、くれぐれも役員退職給与の考え方全般についてしっかりアドバイスを受けた上で、納得して加入するようにして下さい。

-相続税相談の現場から

関連記事

ハルメク2023年8月号で遺産の寄付について取材協力及びコメント

雑誌ハルメクの2023年8月号で、遺産の寄付について取材協力及びコメントをしています。 ハルメクは書店売りのない定期購読誌ですが 50代からの女性に役立つ情報が多く、見本誌を頂くといつも熟読してしまい …

退職金話法、その前に(所得税法)

通達よりまず法律!役員退職給与の基礎のキソ 【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】は、税理士も、また税理士ではなくても法人へ生命保険を提案されるみなさまなどにはなじみのある通 …

配偶者居住権 死ぬまで自宅に住める 2次相続時に節税のメリットも

令和2年4月1日以後の相続や、同日以後に作成する遺言から利用できるのが「配偶者居住権」の制度です。活用法や注意点を改めて確認しましょう。 配偶者居住権 導入の背景 夫の遺産の相続時、従来は法定相続分と …

贈与=相続税対策じゃないってホント?

精算課税での贈与に相続税上のメリットはない 生前贈与が相続税対策として優れている点は2つあり、1つ目は、贈与により相続税の対象となる財産の量が減るので、相続税を直接減らす効果があること、2つ目は将来、 …

生活設計塾クルー発行のクルーレポートに隔月で記事を執筆しています

2024年11月より隔月で、生活設計塾クルー発行のクルーレポートに記事を執筆しています。 クルーレポートとは クルーレポートとは、 ㈱生活設計塾クルーさんが月4回(第1~第4土曜日)、有料で配信してい …

相続税相談の現場から
ブログ