相続人が海外に住んでいる場合の相続手続き

相続税相談の現場から

相続人が海外に住んでいる場合は、相続手続きに必要な書類が通常と異なります。

日本国籍のある・なしに分けて、見ていきます。

日本国籍のある相続人の方

海外に住んでいて、日本国籍のある相続人の方は
印鑑証明書にあたる署名証明書と、住民票にあたる在留証明書の取得が必要です。

平日日中に本人が大使館などに出向き申請する必要はありますが、原則当日に発行してもらえます。

署名証明書

「署名証明書」は、通称「サイン証明」とも呼ばれ
本人が領事の前で署名したことを証明してくれる、印鑑証明書の代わりになる書類です。

居住している国の日本大使館領事館で発行してもらえます。
通常、首都にあるのが大使館で、それ以外の都市にあるのが領事館です。

署名証明書には、貼付型単独型の2種類があり

貼付型は、遺産分割協議書など証明したい書類に、直接証明書が割印されるため信頼度は高いです。
しかし、証明が必要な書類が生じる都度、本人が出向き取得するため、手間がかかります。

一方、単独型は、本人の署名だけを単独で証明する、まさに印鑑証明書のようなものです。
複数通取得でき、また、手続き後に原本を返してもらえる場合は、別の手続きにも使えて便利です。

通常、金融機関の手続きは単独型で済み、不動産の相続登記では貼付型を求められることが多いですが、実際に手続きする際は、事前に金融機関や法務局、司法書士に確認しておきましょう。

なお、日本に一時帰国する予定のある方は、貼付型なら日本の公証役場でも発行してもらえます。

在留証明書

次に「在留証明書」は、本人の住所がどこなのかを証明してくれる、住民票の代わりになる書類です。

これも、居住している国の日本大使館領事館で発行してもらえます。

日本に住民登録がなく、かつ、現地に3か月以上滞在し居住していること、または、今後3か月以上滞在する見込みがあれば、申請できることになっています。

なお、この在留証明書を不動産の相続登記に使う場合は、在留証明書に本籍の記載が必要になり、
その場合は申請時に日本の戸籍謄本を用意しなければなりません。

日本国籍のない相続人の方

宣誓供述書

海外に住んでいて、日本国籍のない相続人の方の場合でも

大使館が例外的に
「署名証明書」と「在留証明書」の代わりになる「居住証明」を発行してくれる場合があります。

しかし、それらの発行が受けられない場合は

自分で「宣誓供述書」という書類を作り、その宣誓供述書の中で
氏名、生年月日、住所、そして、自分が被相続人の相続人である旨を述べ、署名をします。

それを、現地または日本の公証人に公証してもらえば
住民票・印鑑証明書・戸籍を兼ねられる書類として効力をもちます。

ただし、宣誓供述書は私文書なので、実際の相続手続きに支障がでないか
事前に司法書士などの専門家に内容を確認してもらった方が安心だと思います。

国籍について

実際のご相談では、国籍についての理解があいまいなことが多いです。

日本人が外国籍の方と結婚し、相手の国の国籍を選ぶと、日本の国籍は自動的に失われます。
日本の戸籍がそのまま残っているからといって、日本国籍があることにはならないのです。
(この場合は日本国籍喪失の届出が必要ですが、実際にはしていない方も多いです)

相続が発生してから慌てないよう、事前に確認しておきましょう。

-相続税相談の現場から

関連記事

マンション

マンションの相続税評価の見直し、通達案が公表されました

国税庁、通達案について意見募集を開始 7/21に国税庁は、マンションの相続税評価方法の見直しについて、通達案を公表しました。 「居住用の区分所有財産の評価について」の法令解釈通達(案)に対する意見公募 …

財産リスト作り 全体像把握

相続税のかかる人が増えていると聞きました。 わが家には財産と呼べるほどのものはありませんが、何か準備が必要でしょうか? もともと相続税は、オーナー経営者や地主など一部の富裕層だけに課される税金で、 普 …

妻が自分の通帳を税理士に見せなかったら?

仕事も趣味も人生も 結果よりそこに至る「過程」をより楽しみたいもの。 楽しむかどうかは別として、「過程」が大切なのは相続税の申告業務も同じです。 正しい申告納税を行う「過程」 税務上、正しい申告納税を …

日本経済新聞2024年8月14日夕刊〈マネー相談 黄金堂パーラー〉取材協力及びコメント

相続税の申告義務についてコメント 日本経済新聞2024年8月14日夕刊マネー面の 〈マネー相談 黄金堂パーラー〉 にて 相続税の申告義務について取材協力しています。 相続税法第58条に基づく 死亡情報 …

相続税がかかる人が増えたのは、なぜ?

「平成22年分の相続税の申告の状況について」が、2012年4月25日に国税庁から公表されました。震災の影響で申告期限が延長されていたこともあり、例年より約4ヶ月遅れです。 「平成22年分の相続税の申告 …

相続税相談の現場から
ブログ