退職金話法、その前に(所得税法)

相続税相談の現場から

通達よりまず法律!役員退職給与の基礎のキソ

【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】は、税理士も、また税理士ではなくても法人へ生命保険を提案されるみなさまなどにはなじみのある通達です。「常勤役員から非常勤役員へ」「取締役が監査役へ」「給与が50%以上減少」など、いわゆる「みなし退職」により支給された退職給与についての通達です。

国税庁:法人税法基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与

平成19年にこの通達が改正されたことにより、分掌変更による退職金が認められにくくなったという意見もあるようですが、それはある意味誤解ではないでしょうか。
むしろ、この通達に縛られすぎることの方が危険だと感じます。

この通達の正しい位置づけを知るためには、できれば役員退職給与の基礎のキソ、つまり、税務上の退職金に関する所得税法や法人税法の法律自体をきちんと理解しておく必要があるでしょう。

そもそも「退職金」とは?

【所得税法の考え方】

所得税法 第30条
退職所得とは、
(1)退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与 及び
(2)これらの性質を有する給与
に係る所得をいう。
※数字(1)(2)及び下線は筆者加筆

会社からもらう給与や賞与はどちらも「給与所得」として、5%~40%の累進税率で所得税が課されます。
しかし、退職金はめったに受け取る機会がない点を考慮して、「退職所得」という別の区分を設け、受け取った退職金から勤続年数に応じた退職所得控除額をマイナスし、その残額を2分の1にした金額に累進税率を乗じ、所得税を計算します。
結果として、退職所得は給与所得より税負担が大幅に軽くなるため、「退職所得とは何か」という争いも、過去に多くありました。

これについては、最高裁が所得税法第30条(1)に該当するための要件を3つ、示しており

  1. 退職(勤務関係の終了という事実)により支払われること
  2. 報酬の後払いの性質を有すること
  3. 一時金として支払われること

この3要件をすべて満たせば、晴れて「退職所得」としての課税が認められることになっています。

次回のコラムでは、法人税法について見ていきたいと思います。

-相続税相談の現場から

関連記事

自筆証書遺言の作成・保管 法改正で円滑に

相続に関する法律が大きく改正されたというニュースを聞きました。 家族円満なわが家でも、知っておいた方がいい内容はありますか? 相続法改正で変わる相続実務 民法の相続に関する規定が約40年ぶりに改正され …

日本経済新聞2024年8月14日夕刊〈マネー相談 黄金堂パーラー〉取材協力及びコメント

相続税の申告義務についてコメント 日本経済新聞2024年8月14日夕刊マネー面の 〈マネー相談 黄金堂パーラー〉 にて 相続税の申告義務について取材協力しています。 相続税法第58条に基づく 死亡情報 …

贈与の証拠の残し方

お客様から 「信託銀行から暦年贈与信託のサービスをすすめられましたが 利用した方がいいでしょうか」 というご質問があったので このサービスだけを単体で利用するなら 贈与の証拠が残るのでよいと思います、 …

産経新聞 日曜朝刊連載「100歳時代の歩き方」取材協力及びコメント

産経新聞の日曜朝刊「100歳時代の歩き方(全5回)」にて 相続税について取材協力及びコメントしています。 2024年9月いっぱいの連載です。 第1回 相続税はお金持ちしか関係ないのでは いや、そうでも …

自分でできる相続税申告の本

改訂版『自分でできる相続税申告』が発売されました

『自分でできる相続税申告』の改訂版(第2版)が、昨日発売になりました。 自分で相続税申告をしてみたい、という方のお役にたてばうれしいです。 旧版→改訂版で変わった点 増刷の都度、民法や税法の改正につい …

相続税相談の現場から
ブログ