遺言で愛する妻の再婚を阻止する方法

相続税相談の現場から

先日、ウィーン・フォルクスオーパーのオペレッタ「メリー・ウィドウ」の日本公演を観に行きました。

メインテーマは「大富豪の夫から多額の財産を相続した未亡人ハンナの再婚相手は誰か?」。
彼女には財産目当ての男たちばかりが群がりますが、その舞台の終盤は、夫の残した「遺言」の内容がストーリ展開のカギになっていました。

遺言で決めることができる遺産相続の条件

財産目当てでハンナに求婚した男性は、ハンナから「再婚すると私の全財産は消滅する、と亡き夫の遺言に書かれているの」と言われ、あわてて求婚を取り消します(ひどい!)。

その後、ハンナが秘かに思いを寄せていた別の男性が、ハンナが財産を持たなくなることを確かめた上で、ハンナに求婚するのです(ステキ!)。

ただし、その遺言には続きがあり「その財産は、ハンナの新しい夫のものになる」と書かれていて(さらにステキ!)、めでたしめでたし・・・とフィナーレを迎えます。

とはいえ、果たして遺言でそんなことを決められるのでしょうか。

通常、遺言には様々な条件を付けることができます。
ハンナの元夫が残した遺言は「解除条件付遺贈」と呼ばれ、ある条件が成就したら財産を「もらえなくなる」というものです。

「停止条件付遺贈」の場合

ただ実際には、その逆のある条件が成就したら財産を「もらえる」という「停止条件付遺贈」の方がよく使われます。

たとえば、自宅だけは子孫に残したいと思っている人(父)がいます。
長男夫婦には子どもがなく、次男夫婦に既に息子(父にとっては孫)がいるため「長男の50才の誕生日までに長男夫婦に子どもが生まれたら、長男に自宅を相続させる。生まれなければ、次男に自宅を相続させる」という遺言を残して亡くなりました。

通常、遺言をした人が亡くなった瞬間に遺言は効力を生じますが、「停止条件付遺贈」の場合、条件が成就するまでは遺言の効力は生じません。

そのため、いったんは相続人である長男と次男がそれぞれ「相続分」で財産を取得したものとして相続税を申告します。相続人同士が話し合い、相続分とは違う割合で申告するならそれでもかまいません。
めでたく長男夫婦に子どもができたら、遺言通り長男が自宅をもらえますし、次男は更正の請求を行えば既に納めた相続税を返してもらえます。

遺言に妻の再婚を禁止すると書いても法律上は無効

亡くなったハンナの元夫は、財産目当ての男が言い寄るのを十分見越して、こんな遺言を残したのかもしれません。
再婚すれば、新しい夫に自分の財産が渡るなら、それでもハンナが再婚したいと思うのは、自分が本当に愛している男性だけのはず。
遺言に妻の再婚を禁止すると書いても法律上は無効です。だから、元夫は愛するハンナのために、幸せな結婚をするように仕向けたのかもしれません。

亡き夫が遺言で、愛する妻が不幸になるような再婚を阻止してくれること・・・。
幸せな結婚にも、幸せな未亡人にも憧れます。

-相続税相談の現場から

関連記事

謎だらけの過大役員退職給与(後編)

前回に引き続き、「過大役員退職給与」について考えます。 「いくらなら不相当に高額か」については謎だらけ 役員退職給与が「不相当に高額」か否かを類似法人と比較するため、審判所等では主に「功績倍率法」「1 …

贈与=相続税対策じゃないってホント?

精算課税での贈与に相続税上のメリットはない 生前贈与が相続税対策として優れている点は2つあり、1つ目は、贈与により相続税の対象となる財産の量が減るので、相続税を直接減らす効果があること、2つ目は将来、 …

遺産相続の基本ルールを知る

相続税のことも心配ですが、二世帯住宅に長男家族と暮らしているため、 遺産相続で長男と長女がもめないかも気がかりです。 遺産をスムーズに分けられないと、相続税の特例を使えず納税額が増えることがあります。 …

デジタル遺言制度の検討が始まっています

デジタル遺言制度の検討が始まっています 日本経済新聞 2023年5月6日 「デジタル遺言」制度創設へ ネットで作成/押印・署名不要 改ざん防止、相続円滑に 一般的な遺言の方式には「自筆証書遺言」と「公 …

お城と桜

戦国武将の描き方と遺産相続の類似点

明智光秀の別人さに驚く NHKの大河ドラマは、戦国時代をテーマにしたものが多いですね。 私は歴女でもなく、山川の日本史シリーズで学んだ程の知識しかありませんが 同じ戦国武将でも、その描き方がドラマごと …

相続税相談の現場から
ブログ