相続対策には生命保険より不動産?(後編)

相続税相談の現場から

不動産を買うなら相続税のことも頭に入れておく

税メリットや安定収入の確保だけを目的として行えるほど、不動産投資は甘くありません。でも、不動産を買うなら相続税のことも考慮して買った方がよいケースがあります。

例えば、親が自宅を住み替えるなら、郊外より都心に移り住んだ方が将来子どもの払う相続税が安く済む可能性は大いにあります。
小規模宅地等の特例(居住用)は8割引にできる土地の「面積」に上限があるため、路線価が高い土地ほど得になるからです。もし生前に親がその家に住まなくなっても都心の物件なら借り手も付きやすく、子どもは小規模宅地等の特例(賃貸用)の5割引が使えます。
※ 平成27年1月1日以降の相続では、居住用330㎡、賃貸用200㎡が上限。

また、子どもがマイホームを購入する際、親が相続時精算課税で購入資金を贈与するよりも、いったん親の名義で物件を買い、その後、子どもに相続又は贈与します。
一般的に不動産の方がキャッシュより相続税評価額が低いので、効果は同じでも税金は安くなるのです。

戸数の多い都心のタワーマンションなら、1戸あたりの土地の持分割合が少ないため「相続税評価額」と「時価」のかい離が特に大きくなっています。
建物の占有面積が同じならマンションの相続税評価額は同じです。
そのため、時価が高い南向きの上層階の部屋などは、相続税評価額が実際の価格のたった2、3割程度ということもあり、かなりメリットが大きいのです。

不動産業界以外で相続ビジネスに携わる立場の方なら

前回のコラムで先述した新聞記者の方が参加したセミナーでは「東京の物件なら収益力・換金性・将来性にも優れている」と、相続税以外のメリットも強調されていたそうです。

しかし本当に「東京は人口が流入している」「東京は需要が多く空室リスクも低い」のかというと、総務省統計局による東京都の将来人口予測(5年ごと)によれば、人口のピークは7年後の平成32年で、その後は減少に転じる見込みになっています。

また、民法717条には工作物責任という規定があり、建物に瑕疵がありそれにより損害が生じたら、所有者に過失がなくても、瑕疵を知らずに取得していても、外壁の落下による損害でも、所有者は損害を賠償する義務を負ってしまうのです。

相続ビジネスに携わる立場としては、不動産投資に興味があるお客様の意見を否定せず、まずはメリットとデメリットを分かりやすく説明することが先決です。その上で、遺言書の作成や生前のうちの相続税の試算、または生命保険の活用など、相続対策全般の重要性をお話してみてはいかがでしょうか。

みなさまへの信頼度がアップするだけではなく、不動産投資と組み合わせた自身のビジネス活用の場が広がるかもしれません。

-相続税相談の現場から

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