自社株に譲渡制限が付されていたら
株主名簿がなく、株主の分かる資料が別表2の「同族会社等の判定に関する明細書(以降、別表2)」だけという会社は、決してめずらしくありません。
また、過去に株式の贈与があったとしても、贈与契約書があって贈与税の申告納税をしていれば、株主が変わったという証拠がそれで万全という訳でもないのです。
誰が本当の株主なのかは慎重に判断しなければなりません。
たとえば、自社株に譲渡制限が付されているなら、譲渡ではなく贈与でも、会社に対し譲渡承認の請求が必要です。それを決議した取締役会(又は株主総会)の議事録がないと、贈与があったと判断するのは難しくなってしまいます。
一方、税務上は、株式の名義変更が無償で行われた場合、原則として贈与として取り扱うことになっています(相続税法基本通達9-9 財産の名義変更があった場合)。また、株主とは株主名簿に記載されている人のことではあるけれど、その人が単なる名義人にすぎず、それ以外の人が実際の権利者である場合には、その実際の権利者を株主として取り扱うことになっています(法人税基本通達1-3-2 名義株についての株主等の判定)。
コラム第33回でご紹介した事案では、株主名簿が存在しないので、名義変更が無償で行われた事実があったとはいえません(別表2の書き換えは名義変更ではありません)。また、過去に株主総会を開催し、祖父以外の株主が議決権を行使した事実や配当金を受け取った事実もなく、実際の権利者は祖父であることが明らかです。
結局、すべての株式が祖父の財産だと考えて、作業を行うことになりました。
非上場株の贈与、増加中
いわゆるアベノミクスで株価が上昇し始めていることもあり、今年は非上場株の贈与がブームです。
その理由は、非上場株の評価の方法にあります。オーナーが保有する非上場株の評価額は、類似業種比準方式(自社と事業内容が類似する上場企業の株価や利益・配当・純資産を基に株価を求める方法)や純資産価額方式(自社の資産・負債を相続税評価額に評価替えし株価を求める方法)で計算します。
自社と類似する上場会社の株価は、贈与した「当月」「前月」「前々月」に加え「前年」の株価も選択できるため、平成25年中の贈与なら平成24年の平均株価が使用できるのです。
今年に入り上場会社の株価は全般的に上昇し、24年中は8,000~10,000円程度だった日経平均株価が、25年は一時16,000円近くまで上昇し、現在も14,000円前後で推移しています。
来年以降の株価動向は分かりませんが、今年中の贈与ならこの株価の上昇を考慮しなくても済むため、贈与税が有利になる可能性が高いのです。
こうした名義株の問題や類似業種比準価額の評価については、相続税の中でもさらに高度な知識が要求されます。
疑問や不安な点がある方は、相続が発生する前に、早めに専門の税理士へご相談してみてはいかがでしょうか。