妻が夫の口座から自分の口座にお金を移したら「贈与」になる?

相続税相談の現場から

たとえば、夫から家計の管理を任されている妻がいたとします。

この妻が夫の口座から200万円を引き出し、自分の口座に移しても
それだけではこのお金は妻のものにはなりません。

この場合は、たとえ妻名義の口座にあるお金でも
法律上、そのお金は正真正銘、夫のものだと考えます。

贈与されない限り、夫の稼いだお金は妻のものにはならない

なぜなら、日本では夫婦は「別」財産制なので
お金を「稼いだ」のが夫なら、それは夫だけの財産だとされているからです。

夫の稼ぎは夫婦ふたりのものではありません。

どんなに一心同体の夫婦でも
夫のお金を妻のものにするには、夫から妻へきちんと「贈与」を行う必要があります。

贈与があったかどうかは、次の2つの観点から判断されます。

【贈与の成立要件】
(1)  「あげました」「もらいました」という両者の意思があるか
(2)  もらったという実態はあるか

(1) 「あげました」「もらいました」という両者の意思があるか

贈与は、あげる人の「あげる」という意思表示と
もらう人の「もらう」という意思表示の両方があって初めて成立します。

民法上、口約束でも贈与は成立します。

ただし、「あげた」「もらった」という証拠である贈与契約書がないと、
いざというとき、他人に対してそのことを証明できません。

たとえば夫の相続が起きたとき
他の相続人や税務署とトラブルになる可能性がとても高くなってしまいます。

(2) もらったという「実態」はあるか

また、契約書という形式面だけではなく
あげた・もらったという実態も伴っていない場合は、贈与があったといえません。

たとえば、預金なら

・ あげる人がもらう人の預金口座に、実際にそのお金を振り込むこと
・ 通帳や印鑑、カードはもらった人が自分で持ち、そのお金を自由に使えていること
・ 引っ越したり、結婚したりしたときには
住所の変更や改姓を、もらった人が
きちんと銀行に届け出ていること

などがポイントになります。

お金を稼いだのが夫なら、それは夫だけの財産

今回のケースでは、夫はあくまで家族の生活費の管理を妻に任せていただけで
あげたわけではありません。

それに、もし妻が夫から本当に200万円をもらったとしたら
たとえ夫婦の間でも、もらった妻には贈与税がかかります。

贈与税の申告書を税務署に提出し、贈与税をきちんと納めなければなりません。

申告もせず税金も払わず、というか、それ以前に贈与もされていないなら
変わったのは単に預金の「名義」だけ。「持ち主」は夫のままです。

お金を稼いだのが夫なら、それは夫の財産という
民法上・税務上の考え方と、普通の人の考え方にはかなり大きな違いがありますので

実際に疑問や不安があるという方は、どうぞ遠慮なくご相談下さい。

-相続税相談の現場から

関連記事

成年後見制度と相続(後編)

前回に引き続き、認知症と相続税について考えます。 父が残した遺言書が認知症である母の遺留分を侵害していたら? たとえば、相続の場面では、父の遺産分割協議を行う際、相続人である母や子、父の兄弟などが既に …

「相続弁護士」「相続税理士」「相続司法書士」― 最適な専門家を探すには?(後編)

前回に引き続き、「相続の専門家」についてです。 状況により選ぶべき「相続」の専門家は違う 【司法書士】 不動産登記や商業登記などの「登記」の専門家です。相続に関しては、被相続人から相続人へ、土地や建物 …

日本経済新聞2024年8月14日夕刊〈マネー相談 黄金堂パーラー〉取材協力及びコメント

相続税の申告義務についてコメント 日本経済新聞2024年8月14日夕刊マネー面の 〈マネー相談 黄金堂パーラー〉 にて 相続税の申告義務について取材協力しています。 相続税法第58条に基づく 死亡情報 …

豚と貯金箱

相続税・贈与税の税収がバブル期を超え過去最高に

相続税の税収がバブル期を超え過去最高に 7/31に財務省は、令和4年度(令和4年4月1日~令和5年3月31日)の税収を公表しました。 令和4年度一般会計税収の予算額と決算額 相続税(相続税+贈与税)の …

妻の「名義保険」にご注意を

妻の保険も遺産分割や相続税の対象に!? 相続税の税務調査における申告もれ財産のNo.1が現金・預貯金、いわゆる「名義預金」だということは、みなさまよくご存じでしょう。 名義預金とは、預金口座の名義は亡 …

相続税相談の現場から
ブログ