どうする? 海外の財産

相続税相談の現場から

富裕層の方の中には、海外にある不動産や現地に支店がある金融機関に預金をお持ちの方もいらっしゃると思います。
そこで、新たに創設された「国外財産調書」の提出制度について確認してみます。

国外財産調書制度とは

【国外財産調書制度】

  • 対象者
    年末時点で、時価の合計額が5,000万円を超える「国外財産」を持っている日本の非永住者を除く居住者
  • 概要
    翌年の3月15日までに、その国外財産の種類や時価などを記載した「国外財産調書」を税務署へ提出する義務がある
  • 適用開始時期
    平成25年12月31日における所有財産、平成26年3月17日提出期限分より
  • 罰則
    1年以下の懲役 又は50万円以下の罰金

さらに、この国外財産に関する所得税や相続税につき、申告もれなどが生じたときの加算税を、国外財産調書の提出の有無に応じて「割引」「割増」するというアメとムチまであります。

  • 過少申告加算税・無申告加算税の割引・割増
    調書を提出していた→所得税・相続税を5%割引
    調書を提出していない、又は、提出した内容に記載もれがある→所得税を5%割増

相続税の場合には、調書の提出義務者は「亡くなった人」。でも、加算税を納めるのは「その相続人」です。割増対象が所得税だけなのは、それぞれが違う人だという点を考慮してなのかもしれません。

国外財産の相続問題

ちなみに、その年の所得が2,000万円を超える人が、国内・国外を問わず持っている財産の種類や時価を記載して税務署に提出する義務がある、現行の「財産及び債務の明細書」に、罰則はありません。
海外には、税務署や国税局の質問検査権が及ばないため財産の有無が把握しにくく、また、実際に国外財産に関する申告もれが増えていることもあり、「国外財産調書」には罰則までつけたのだと思います。

また、国外財産を保有している方が亡くなったときや、国外財産を生前のうちに贈与するときには、その財産の時価をいくらだと考えて相続税や贈与税を計算するのかという「財産評価」についても問題が生じます。

たとえば、国外にある不動産には路線価や固定資産税評価額が付されていないため、「実際の売買実例価額」や「鑑定評価額」などを参考に評価します。

オーナー経営者の場合には、資産運用の一環としてではなく本来の業務に伴って、外国に本社のある法人の株式を、経営者個人や自身が経営する会社が保有することもあるでしょう。先日も、顧問先の社長さんからそんな相談を受けました。

非上場の外国法人株式は、一般的には「純資産価額方式」での評価しかできません。
「類似業種比準価額方式」は、日本の上場会社の株価に比準させる評価方式であり、外国法人との類似性に疑問が生じるからです。
その法人の所有する財産をひとつひとつ評価しなければならないため、株価の評価に多くの手間がかかります。

富裕層の方に対しては、特に幅広い知識やアドバイスが必要ですね。

-相続税相談の現場から

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