兄には絶対、財産を残したくなかったら?

相続税相談の現場から

「遺言書を作りたい」という男性が、事務所にお越しになりました。
子どもはなく、さらに妻にも先立たれ、ご両親も既に他界しているので、法定相続人は兄だけです。

でもその兄とは、お父様の相続のときにもめた結果、今はほぼ絶縁状態だとのこと。
兄だけには、絶対に自分の財産を残したくないんです」と、ご自身で作られた遺言書の案にも、「すべての財産を友人Aに遺贈する」「兄○○を相続人から廃除する」という一文が書かれています。

「相続人の廃除」とは

「相続人の廃除」とは、その人の相続権を取り上げてしまうこと

相手の権利を奪う以上は、それなりの理由と手続きが必要です。
その人から受けた虐待や侮辱、または、その人自身の非行行為などが、とにかく「すごくひどいこと」が条件で、さらに、家庭裁判所の審判も必要になります。

ただし、どんなにひどい兄だったとしても、民法上、「兄弟」を相続人から廃除することはできないのです。

「相続人の廃除」の対象

「遺留分」のある相続人(自分の配偶者や子ども、両親)なら、廃除の対象になります。

遺留分とは、たとえ遺言書で別の人に財産が渡ってしまっても、その一部を取り返すこと(遺留分の減殺請求)ができる権利のこと。
そのため、「遺留分」のある相続人に財産を渡さないという遺言書を残しても、遺留分の減殺請求をされれば財産が渡ってしまうので、どうしても財産を渡したくなかったら、相続人から廃除する必要があります。

でも兄には、そもそも「遺留分」がありません。
亡くなった人から見て、一番遠い相続人である兄弟や姉妹には、民法上、返せという権利は認められていないのです。
「友人Aにすべての財産を遺贈する」と遺言書に書けば、それがそのまま実現する以上、あえて廃除をする意味がないからでしょう。

遺言書にどう書けばいいか?

唯一の心配ごとは、財産を渡すはずだった友人Aが、依頼者であるその男性より先に亡くなることです。
その場合、遺言書の意味がなくなってしまうので、男性の財産は、唯一の相続人である兄に渡ってしまいます。

男性が、新たな遺言書を書ければよいけれど、認知症などを患い、意思能力がなくなっていたら、もう遺言書を書けないということもあり得ます。

「何があっても兄だけには絶対、財産を残したくない!」
そう言い張る男性のため、遺言書に「友人Aが遺言者より先に死亡しているときは、友人Bに遺贈する」という一文を入れました。
念のため、第一順位だけではなく第二順位まで指定しておくことにしたのです。

血や戸籍のつながりだけがすべてではないけれど、でも、そのつながりはとても大切なものです。財産を渡す・渡さないはともかくとして、できればいつか、お兄さんとのわだかまりが、少しは解けるといいのですが・・・。

-相続税相談の現場から

関連記事

妻の老人ホーム入居金、夫が払うと贈与になる?

老人ホームの入居金、本人以外が負担すると贈与税はかかる? 介護保険がスタートして約13年。 要支援や要介護の認定を受け、自宅で介護サービスを受ける方も増えました。 介護保険は現物給付が原則ですが、1割 …

退職金話法、その前に(所得税法)

通達よりまず法律!役員退職給与の基礎のキソ 【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】は、税理士も、また税理士ではなくても法人へ生命保険を提案されるみなさまなどにはなじみのある通 …

相続時精算課税、使ってみても大丈夫?

対象者が広がった相続時精算課税制度を活用すべき? 平成25年度の税制改正で、相続時精算課税制度が今までより使いやすくなります。 平成27年1月1日以後の贈与から、贈与者の年齢要件が60才以上(現行は6 …

「相続弁護士」「相続税理士」「相続司法書士」― 最適な専門家を探すには?(前編)

どの専門家に何を頼めばいい? 「相続について相談したいけれど、どの専門家に何を依頼できるのか、そして、その専門家をどうやって探したらいいのか分からない」 お客様からそう言われることがあります。 「相続 …

二拠点生活をする場合の住民税

二拠点生活をする場合、 住民税の「所得割」は、住民票を置いている市町村の方におさめます。 2か所に住まいがあっても、2か所におさめる必要はありません。 住民税は住民票をベースに判定される 原則として個 …

相続税相談の現場から
ブログ