退職金話法、その前に(法人税法)

相続税相談の現場から

そもそも「退職金」とは?

前回のコラムでは、【法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】の正しい位置づけを知るために、できれば役員退職給与の基礎のキソ、つまり、税務上の退職金に関する法律をきちんと理解しておく必要があるとご説明しました。
前回の所得税法に引き続き、今回は法人税法についてです。

【法人税法の考え方】
法人税の世界では「退職給与とは何か」という規定は存在しないので、所得税の世界と同様の解釈だと考えられています。
法人税法第34条によれば、役員給与(退職給与を除く)のうち「定期同額給与(毎月の給与)」「事前確定届出給与(税務署に届け出た賞与)」「利益変動給与(上場会社のみ)」の3つに該当しない役員給与は、法人の損金にはなりません。
「退職給与」はカッコ書きによりこの条文から除かれているため、法人の損金になりますが、仮に税務署から「いや、それは退職金ではないですね」と言われてしまうと、上記の3つには該当しないので、退職金のつもりで支払った金額は全額損金不算入になってしまうのです。

※実際には、同業種の類似法人と比較して「不相当に高額」な部分の退職金は損金になりません。次回のコラムでご説明します。

では、分掌変更や未払い・分割払いの退職金は?

「①退職による②報酬の後払いとして③一時金で支払われるもの」が退職金、これが最高裁の示している基本的な考え方です。
しかし「最高裁の3要件を完全には満たしていなくても、場合によっては退職所得として認めてあげてもいいか…」というのが、所得税法第30条(2)これらの性質を有する給与です。いわば(1)が原則で(2)がその緩和版です。

(2)の具体例としては、たとえば
・退職はしていない。でも、勤務の性質や内容、条件などに重大な変動があり、
実質的に退職したと同様の事情にある(①の退職要件を満たさず)
・退職金が分割払い、または、未払いである(③の一時金要件を満たさず)
などがあります。

分掌変更による退職金は、退職していない以上、どう考えても(1)退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与ではありません。
となると、(2)これらの性質を有する給与に該当しなければ、退職金として認められる余地はないのです。

つまり、法人税基本通達9-2-32にある「常勤役員から非常勤役員へ」「取締役が監査役へ」「給与が50%以上減少」の3つは、(2)に該当するかを判断するための単なるたとえ話です。
たとえ平成19年の改正で(経営上主要な地位を占めている者を除く)とか(法人の株主等で使用人兼務役員とされない者を除く)のようなカッコ書きが加筆されたとしても、とらわれ過ぎは禁物です。
なぜなら、この通達はあくまで「例示」であり「要件」ではないのですから。
原則である法律の条文に立ち戻り、シンプルに考えることが必要です。

なお、たとえ赤字決算を回避するためだったとしても、分掌変更退職金の未払いや分割払いは原則として認められていません。
「退職の事実もない」その上「一括で支払わない」のでは、最高裁の3要件のうち2つも満たしていないため、仕方がないといえるでしょう。

次回のコラムでは、法令にも通達にも具体的な記載がなく、役員退職給与についての最も悩ましい問題だと言われている「過大役員退職給与」について考えてみたいと思います。

-相続税相談の現場から

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